経済評論とマスコミの記事はなぜ間違いが多いのか?~「ソニータイマー」について考える
現在の大不況を受けて、松下、ソニー、トヨタ、キャノンなどの経営状況や売上低迷の記事が雑誌やニュースをにぎわしている。
松下、ソニー、トヨタ、キャノンは景気がいい時も悪い時も日本を代表する企業であるためマスコミの格好の記事対象になるからだ。
私がソニーのエンジニア時代には雑誌や新聞で「ソニー神話崩壊」と度々書かれていたし、松下さんも「売りあげ低迷~悩める巨人松下」など書かれ、いつものように見出しを賑わしていた。
昔から、ソニー、松下は雑誌や新聞の格好の対象のようだ。最近はトヨタとキャンノも露出度が高い。
日本にはたくさんのメーカーが存在するのだから、他のメーカーさんも時々は大きな見出しで扱ってあげれば良いと思うのだが。。。。
さて、記事の内容は大抵は、事実半分(売上の数字とか。会社が公開するから当然)、嘘や間違いが半分(社内人事や内部事情)っていったところだった。記事の信ぴょう性よりも、雑誌や新聞が売れれば良いという発想で書いている記事が多いようだ。
ただ、ライターさんやエコノミスト方の中には、しっかりした取材と研究をして記事や書籍にしているものもあるので、記事や書籍を書く方のモラルと実力に依存しているのであろう。
さて、最近の記事の中で「ソニータイマー」についてインターネットで見かけた。
「ソニータイマー」とは、「ソニーの製品が保証期間を過ぎるとタイマーで測ったように壊れるという噂」からつけられた昔から存在する一つの「都市伝説」である。
「ソニータイマー」は、マスコミでは良くも悪くも扱われるが、最近見かけた例では、
「かってのソニーは高度な技術があったため、製品が保証期間を過ぎるとタイマーで測ったように壊れるように設計、開発が可能であった。
しかし、今のソニーはもはや「ソニータイマー」を実現できる技術力はない」
と言うものである。
つまり、メーカーが新しい製品をユーザーに購入してもらうには、今使っている製品を長く使ってもらっていては困るので保証期間を過ぎる頃に壊れるように設計するというのだ。
昔、ソニーが大変急成長しているときには、「ソニータイマー」はソニーに対する皮肉として使われた言葉だ。「ソニーは独創的で魅力的な製品が多いが、品質が伴っていない。」と。
「ソニータイマー」はマスコミにとっては、どうやらその時々で都合の言いように解釈して引きあいに出しているようだ。
私はソニーを含め家電メーカーに開発者として在籍していたエンジニアだからはっきりと言えるが、松下、ソニー、トヨタ、キャノン含め、どのような製品のメーカーも製品が保証期間を過ぎるとタイマーで測ったように壊れるように設計など絶対に出来ないし、事実、そんな設計開発方法はしていない。
そもそもそんな情けないことをしないと製品が売れないと思う発想では、市場をリードする魅力ある製品を開発できるメーカーになれない。
なぜ、このような嘘が市場にまかり通るのか不思議でならないが、完全な「都市伝説」である。
記事を書いている人が技術者でなく、エンジニア経験もない経済エコノミストが多いようだが、事実の真偽を真剣に確認することぜず書いているからであろう。あるは、興味本位か?
どこのメーカーの方でも実際に製品開発に関わっていれば、直ぐにデマと分かることである。
会ったこともない色々なユーザーが存在する中で、計算下通りに製品が故障するという設計は非常に困難である。必要以上に製品を頑丈につくることは、部品調達の費用対効果から実施しないしことは確かだし、最近はエコの問題もあるので、製品の廃棄処分のことを考慮することはある。
しかし、これはあくまで廃棄するのことを考慮してであり、部品の素材に含まれる成分が環境に影響を及ぼさないかとか、リサイクルのことを考慮してのことである。
日々進歩する素材の耐久性の研究のコストや、どのような状況下で、どのような使い方をするか分からないユーザーのことを考慮して、保証期間を過ぎるとタイマーで測ったように壊れるように設計など困難であるし、実際に試みるだけの価値が無い。
製品が故障するというのは多くの場合ハードウエアである。摩耗による劣化や衝突による破損などが原因である。
ソニーは昔からポータブルな製品を市場に提供して来たが、ポータブルな製品は、過酷な利用のされ方が多く、振動や摩耗による劣化や、落下による破損などが多い。
これらはユーザーの使い方、扱い方で大きく異なる。保証期間を過ぎると壊れるような設計の基準をどこにすればいいかなど誰にも分からない。
ハードウエアは素材が日々新しいものに変わるし、エレクトロニクス化も急激に進むので、一定の時間が経過すれば摩耗などで壊れることを想定する設計は困難である。
(バカバカしいが)仮に計算下通りに故障する設計を試みようとすると、多種多様な製品開発を行うメーカーはべらぼうな研究開発コストが必要だ。
また、いずれのメーカーも製品の種類に関わらず部品を他のメーカからの調達に頼っている。製品が保証期間を過ぎるとタイマーで測ったように壊れるように設計をするには、
調達先を含めて計算しつくした設計開発が必要だが、そんなことは無理だ。
それに、製品が保証期間を過ぎたからと言って壊れていてはメーカーの信用問題になり、大きな損失だ。
ユーザーに新しい製品を購入してもらうには、新しい機能を搭載した魅力ある新製品開発が一番であり、競合他社との製品開発競争もあるからメーカーは新製品開発に余念がないのだ。
保証期間が過ぎる前に、どんどん新しい製品が登場するのが何よりの証拠だ。
=HSCI Takanari Hashimoto(URL:http://hsc-i.com/)=
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